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料理漫画を研究してます

料理漫画研究家としてのあれこれをここに書いていこうかと思います。 お仕事のご依頼はkei.sugimuraあっとgmail.comまで!

奇跡のリンゴ 「絶対不可能」を覆した農家 木村秋則の記録

6月より映画が公開になっている「奇跡のリンゴ」ですが、コミカライズ版もあったりするのです。漫画を描いているのは今チャンピオンで「泳げ! ひなのちゃん」というオープンウォータースイミング(ようは海とかで泳ぐ競技です)連載している藤川努先生です。

この作品は、不可能と言われていた無農薬で無肥料でリンゴを栽培することに成功した木村さんを描いたものです。できないと言われていたのにできたので、奇跡のリンゴというわけですね。ですが、これが本当に難しい。何が難しいかというとやっぱりそれは農薬の問題です。

作中では木村さんは、農薬を使わないで他のもので病害虫に対抗しようとしています。そこで選んだのがわさびとか。それからニンニクとか牛乳とかを使っています。そして最終的に選んだのがお酢です。でも実は、お酢というのは特定農薬に指定されているんですよね。

漫画の冒頭には原作の石川先生の言葉としてこんなことが書かれています。ちょっと長いんですが引用してみましょう。

 本書では「農薬」という言葉を、取り扱いに専門的な知識および注意義務を課せられた一般的な農薬という意味でのみ使用し、現行の農業関係法規上で特定農薬に指定されている酢については、本書の表記上「農薬」の範疇には定めていない。理由は大きく分けて二つある。
 その第一は、法律が酢を特定農薬に指定するのは、農作物の栽培において酢の果たす一定の効果を認め、かつその安全性を保証することが目的であり、取り扱いに専門的な知識および注意の必要な一般的な農薬とは区別していること。
 その第二は、農薬の使用について現在ではその問題点が様々な方面から提起されているが、この場合の「農薬」が食酢のような特定農薬を意味しているわけではないことが明かと思われるからだ。
 したがって、本書の農薬という言葉の意味するものは、あくまでも社会通念上(と著者の考える)の「農薬」であって、法律の定義によるものではないことを明記しておきたい。

いやー、難しいですね。でも、法律で定まっているものではなく、「著者が考える」社会通念上の農薬という言葉は少しずるいんじゃないかなあと思うわけです。気持ちはわかるんですが、それは言っちゃいけないことなんじゃないの、と。この理屈だったら無登録農薬だって法律上では農薬じゃないしでも効果は昔認められていたしこれで作ったものは無農薬とか言えちゃうんじゃないか、とかも思うわけです。実際には罰則があるからそうはいかないんですが。でも、著者が考えるという言い方をしちゃったら何でもありですよね。

そもそも天然のものだったら農薬じゃないというわけでもありません。殺虫剤の原料になっている除虫菊とか有名ですよね。また、化学的に合成されたものが全て悪いわけでもありません。合成されて作られるものの中には、重曹があります。料理にも使われたりする、食塩やビタミンCよりも毒性の低い重曹は、お酢と並んで特定農薬に指定されているのですね。だから化学的に合成されたものが全て悪いわけじゃないというわけです。

2002年のデータですが、国内の農薬の中に毒物は2%以下、劇物が21%、普通物が77%です。なので農薬は全て悪いわけではありません。そして、リンゴや桃は、現代の品種が病害虫に弱いのもまた事実です。病害虫を防ぐ農薬を使うようになってから、果物でも野菜でも美味しくなっているんですよね。この辺のお話は、コンシェルジュ8巻に載っているので興味のある人は読むといいでしょう。あの、美味しん……もとい、某グルメ漫画に喧嘩を売っていると有名なお話が載っている巻です。

木村さんの無農薬無肥料のリンゴはなので、無農薬無肥料というのはちょっと言い過ぎかなーとも思ったりするのです。でも別に、苦労をしていないとかそういうことではなく、漫画からも大変苦心してリンゴを育ててきたのはとてもよく伝わってきます。藤川先生の絵の迫力もあって、読み物としてはとても面白くなっています。

でもこれが、全てのリンゴ農家が目指すところであるかというと、そうではないとも思うのです。まあ、一消費者としては美味しいか美味しくないかが重要であって、実際の評価は食べてみないとなーと思うわけですね。安全か安全で無いかは、僕は木村さんのリンゴは市販されているリンゴと同じぐらいには安全なんじゃないかなと思う次第です。

2013年5月24日発売


コンシェルジュ 8 (BUNCH COMICS)

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