美味しんぼで「日本酒の実力」というほぼ日本酒の話で構成されている単行本の内容がたいへん興味深かったのですが、あの巻の内容についてむむさんはどう思われますか。[INTERVIEW記事]
- 作者: 雁屋哲,花咲アキラ
- 出版社/メーカー: 小学館
- 発売日: 1995/12
- メディア: コミック
- クリック: 1回
- この商品を含むブログ (4件) を見る
Q.美味しんぼで「日本酒の実力」というほぼ日本酒の話で構成されている単行本の内容がたいへん興味深かったのですが、あの巻の内容についてむむさんはどう思われますか。
これは大変素晴らしい質問です。僕のように日本酒好きで美味しんぼ好きにはぴったりの巻の話ですね。
「日本酒の実力」が収録されているのは54巻です。54巻に6週分に渡って掲載されています。
http://www.amazon.co.jp/o/ASIN/4091835945/mumu08-22
ここで注意したいのは、この54巻が1996年2月に発売された巻であるということです。つまり、今から15年以上前のお話なのですね。なので現在とは少し様相が異なっているということを忘れてはなりません。
ではここで、「日本酒の実力」の中で美味しんぼが主張していることをまとめてみましょう。
・ワインと日本料理が必ずしも合うわけではないけど、フランス人の真似をしている似非食通が多い
・日本の食文化の中で料理と酒の組み合わせに対する意識が低すぎる
・大手の蔵が桶買いをしているのがよくない
・三増酒、つまりは三倍増醸酒はよくない
・本醸造酒は三増酒よりももっと巧妙にしたもうけ目的の酒なのでよくない
・純米酒は最高
・吟醸酒は芸術品
・「酒は淡きこと水のごときを持って良しとする」にみんな従っているのが嘆かわしい
・アルコール添加吟醸酒は味が薄まっているのを軽いとかすっきりしていると勘違いしているだけ
・アルコール添加こそが諸悪の根源。日本酒ではなく一見清酒風アルコール飲料だ
・純米大吟醸こそが究極
・酒類審議会の一級とか特級とかわかりづらい(これは今は無いです)
・醸造用アルコールを添加すると世界的な水準ではリキュールに分類されてしまう
あたりでしょうか。
1996年の時点でこれだけ調べ上げているのはさすがとしか言いようがありません。ちょうど吟醸酒ブームがきていたとはいえ、作中でも触れられていた1995年の阪神大震災で灘の酒造会社が倒壊したり職人さん達が地震の犠牲になっていたりと、いろいろ揺れている真っ最中にこの回は描かれたのです。
さて、この巻の内容について、2011年の今だからこそ言えることがあります。それは、本醸造などのアルコール添加をしているお酒は、そんなに悪いものではないですよ、ということです。
本醸造などのアルコール添加をしてあるお酒は、美味しんぼで描かれているように儲け目的で薄めるために使っているのではないと思います。アルコール添加は、職人さん達が思い通りの味を作り出すために行っていることなのです。
ワインの世界では、○○年はブドウのできが良いグレートヴィンテージだとか、××年のブドウのできはあまり良くなかったので、それほど良いヴィンテージではないという言い方があります。発酵して作るものですから、その発酵のもとになっているものが美味しいと、できあがるお酒もより美味しくなるのです。でも、日本酒の世界では、○○年の物が素晴らしいグレートヴィンテージだとかって、あまり言いませんよね? ここに秘密があると思います。
日本酒や、お米にだって、当然年によるできのばらつきがあります。日本酒はワインみたいに数年寝かせておくという文化が少ないこともあるのですが、そのできのばらつきがあまり話題にならないのは、職人の力なのです。日本の職人さん達は非常に優れた技を持っておりますので、多少お米のできが悪い年でも、巧みに例年通りの美味しさに作り上げてしまうのです。その技のひとつがアルコール添加であると思います。そう、アルコール添加はどちらかというと、量を増やすために行うのではなく、職人さんが思い通りの味を出すために用いる、職人の腕の見せ所なのです。
だから、美味しんぼの作中でも「この素晴らしい吟醸酒や大吟醸に、アルコール添加をするのが解せない」と言っているのですが、それは上記のような理由からだと思っています。
ちなみに最近はそのアルコール添加に工夫するところも色々と出ています。たとえば、龍力の「大吟醸 米のささやき 龍仕込みエピソード1」というお酒は添加するアルコールを、同じ蔵で造っている米焼酎でやっています。添加するアルコールを、美味しい米焼酎でやったらどうなるか? という意欲作ですね。これがまたすごく美味しいんです。
また、大手さんの作るお酒でも最近は美味しいのがでています。昔のというか、この巻の描かれた1996年ぐらいの時点は日本酒を飲んでいなかったので、その当時のことはわからないのですが2011年は大手さんのお酒でも美味しいのはありますよ、ということですね。
というわけで、僕は美味しんぼの記述はおおむね賛成ではあるものの、純米だけを良しとする純米至上主義者ではない、というスタンスです。
- 作者: 雁屋哲
- 出版社/メーカー: 小学館
- 発売日: 2013/01/01
- メディア: Kindle版
- この商品を含むブログを見る