料理漫画を研究してます

料理漫画研究家としてのあれこれをここに書いていこうかと思います。 お仕事のご依頼はkei.sugimuraあっとgmail.comまで!

女子のための食欲をそそる「グルメマンガ」ベスト5! という記事をダ・ヴィンチ電子ナビ様に寄稿しました

ちょっと更新が滞っておりましたが、料理漫画研究家活動はしております。このブログも徐々に再開させていきます。ほんとすみません。書いていない本が積み上がって70冊ぐらいある気がする……頑張って今年は毎日のように更新したいです。もう1月も半分を過ぎようとしていますが。去年のまとめもまたやります。

それはさておき、昨年の話なのですがダ・ヴィンチ電子ナビ様に寄稿いたしました。

■空腹時、閲読注意! 女子のための食欲をそそる「グルメマンガ」ベスト5
http://ddnavi.com/book-best5/166771/

Yahoo!版はこちらです。
http://zasshi.news.yahoo.co.jp/article?a=20131015-00003002-davinci-ent

今回はこの5作品とか他の作品について、ちょっと解説を入れていきたいと思います。


1位:おしゃべりは、朝ごはんのあとで。

ひきこもりの漫画家が自腹で朝ご飯を食べに行く漫画です。これが、漫画家さんが登場するエッセイ系漫画の中では突出して面白いんですよ!
まず、行っているところがおかしい。第一回目がいきなりパリ。二回目が京都。最終的にはハワイにも行きます。
また、キャラクターの個性も面白いというか。作者自身が表紙の絵のイケメンが持っているスプーンにのっている謎の生物(?)として描かれているですが、絶妙のおとぼけ感がいいんです。「らでゅれ……あとで検索しよう」とか言って結局検索しないままパリのラデュレ本店に入ったり、食べた料理の描写も「お米の味がする!」とか「外国の味がする!」とかわかったようなわからないような。でも、このリズム感がなんとも心地よく、また面白いのです。

そして担当編集のドメさんとのかけあいがまた面白いのです。ボケとツッコミがきっちりとしているのですね。

ちなみに表紙のイケメンはでてきません。あくまでスプーンの上にいる謎の生き物(?)が主役ですのでお間違いなきよう。

元々は「恋の前にはクロワッサン。愛の後には目玉焼き」というタイトルだったんですが、単行本になったときに「おしゃべりは、朝ごはんのあとで。」と改題されました。これ、今年に第二弾、第三弾とやってくれないかなあ。

http://yawaspi.com/koinomaeni/

おしゃべりは、朝ごはんのあとで。 (ビッグコミックス)

おしゃべりは、朝ごはんのあとで。 (ビッグコミックス)


2位:おとりよせ王子飯田好実

もう僕が好きすぎる作品のひとつなんで、あちこちに書いていますがここにも登場しています。「女子のための食欲をそそる」というテーマであえて男主人公作品を持ってきましたが、おとりよせといい、オレオリといい、僕の周りでは女子も食欲をかなりそそられているのでその辺はクリアしていると思うのです。

毎週水曜日のノー残業デーに、全国各地から美味しいものをおとりよせをするのが好きな飯田好実くん。ただおとりよせしたものを食べるだけじゃなく、色々とアレンジをしたりして(俺のオリジナル=オレオリ)実に楽しそうに食べるのです。Twitterとの連携も見事で、作中にもTwitterが出てきます。あ、Twitter上では女性と間違えられたりもしていますね。やっぱりテーマは間違えていなかった!

昨年放送されたドラマの再現度もたかくて素晴らしかった!
1月20日に4巻がでますね。こちらも楽しみです。

エキレビに書いたのはこの辺です。
日本一のたまごかけご飯!『おとりよせ王子 飯田好実』で美味しい食べ物をお取り寄せまくれ!(エキサイトレビュー) - エキサイトニュース
【速報!「おとりよせ王子 飯田好実の絶賛極うまぼっち飯」に行ってきた】(エキサイトレビュー) - エキサイトニュース


3位:ワカコ酒

2013年に発売された作品の中で、一番好きな作品と言っても過言ではありません。もうね、この作品を読むとお酒が飲みたくてたまらなくなるんですよ!
じゃあなんで3位にしたのかというと、それはやっぱり食べたくなるのがお酒だから。お酒を飲めない人がある程度以上の数がいますし、そもそも未成年はお酒を飲んじゃダメです。そう考えると「女子のための食欲をそそる」1位にするのはちょっと違うかな、と思ってこの順位になりました。
酒飲みの舌を持つワカコさんが一人で居酒屋に行ってお酒を飲んで「ぷしゅーーーーー」とする。これがまあ実にいいんです。とにかくお酒も料理も楽しんでいる姿がいいんですね。

あまりの人気のためか、2014年に発売となっていた2巻が昨年末に発売されました。素晴らしい! もちろん2巻も面白かったです。

エキレビで書いた記事はこちらです。
女子だって「孤独のグルメ」するんです。『ワカコ酒』で一人酒(エキサイトレビュー) - エキサイトニュース(1/2)

ワカコ酒 1 (ゼノンコミックス)

ワカコ酒 1 (ゼノンコミックス)

ワカコ酒 2 (ゼノンコミックス)

ワカコ酒 2 (ゼノンコミックス)


4位:くーねるまるた

4位はポルトガルからの留学生まるたさんの節約ライフ(?)を描いたくーねるまるたです。バカリャウ(干し鱈)が出てきていたりして、ポルトガルの料理が中心なのかと思いきや、わりと何でもやってしまいます。
これがまた、いいんですよ。本当にとりあえず何でもやってみたり、美味しそうなものがあってもお金が足りなかったら手元のものとかで創意工夫したりしているのです。そしてできあがったときに美味しそうに食べること! 食欲がわいてきますし、真似をしたくなります。

こういう、ほかの国から日本に来て食文化の違いを……という作品では、奥さま Guten Tag!という作品もあるのですが、まるたさんの日本文化に対する思いとかも含めてくーねるまるたを選びました。
となりのヤングジャンプ : 奥さま Guten Tag!


くーねるまるた 1 (ビッグ コミックス〔スペシャル〕)

くーねるまるた 1 (ビッグ コミックス〔スペシャル〕)


5位:にがくてあまい

最後にどうするかすごく悩みました。今まで挙げたものは、1位にエッセイ物でお店に行くタイプ、2位におとりよせ&自炊、3位がお酒、4位がポルトガル料理というか海外の料理&自炊。そう考えると、ただ自分で調理をする系のものだとジャンルが少しかぶってしまいますし、お店に行くタイプのものも同様です。

そうやって考えて、なるべく他のとジャンルが重ならなく、調理がしたくなったりするのは……と思って思いついたのが「にがくてあまい」だったのです。「きのう何食べた?」も考えたのですが、ベジタリアンという要素を考えるといいかな、と。あと「きのう何食べた?」と違って主人公の片方が女性だということもポイントになったのでした。

ベジタリアンのイケメン高校教師(ただしゲイ)と、肉が好きで野菜嫌いなOLのラブコメディという作品ですが、出てくる料理が全部野菜中心なのです。これが、美味しそうなんですよ。そういうところでは日日べんとうも同じ精進料理系中心ではありますが、料理が出てくる頻度はこちらの方が上かなということで、5位に選んだというわけでした。

にがくてあまい(1) (エデンコミックス)

にがくてあまい(1) (エデンコミックス)


番外編:三月のライオン

こっそり原稿の隅に書いておいた番外編もダ・ヴィンチ版では掲載されております。三月のライオンは料理漫画かというとすごく難しい。でも、読むと出てきた料理を食べたくなる力は天下一品なのですよ!
僕は将棋も大好きなので将棋パートも好きなんですが、料理パートも大好きだったりします。メンチ丼、美味しかったです。

番外編:俺物語

もうひとつおまけに。俺物語はヒロインの大和凜子が初期に造っていたスイーツも何気にポイントだと思うのです。あれ、美味しそうですよね。2巻にはレシピが載っていたりということを考えると、やっぱり反響があったんじゃないかと思うのです。でも料理漫画かなあ……ということを悩んでいたので、番外編にちょこっと書いていたのでした。

俺物語!! 4 (マーガレットコミックス)

俺物語!! 4 (マーガレットコミックス)

沙村宏明「ハルシオンランチ」と「美味しんぼ」との関係について語ってください [INTERVIEWS記事]

ハルシオン・ランチ 1 (アフタヌーンKC)

ハルシオン・ランチ 1 (アフタヌーンKC)

Q.沙村宏明「ハルシオンランチ」と「美味しんぼ」との関係について語ってください

ハルシオンランチですか! あの「グルメ漫画?」と作者自ら「?」をつけている作品ですね。これは料理漫画に分類していいのかどうか、僕にもわかりません。SF漫画というのが一番いいんじゃないかと思いますが。

それはさておき、ハルシオンランチと美味しんぼとの接点は2つあります。

○1巻5話「ゲートキーパー」において。
Twitter風につぶやいている沖進次くんのコメントで以下のようなものがあります。
「次の台詞を聞いて、副部長が何を食べたのかそれぞれ当ててください
1:「おおっ!! こりゃ旨い!!」
2:「うまい! こら、うまいですな」
3:「これは旨い! 旨いですなっ!!」
4:「こらあうまいもんだねーえ」
5:「うまい、これはうまい!!」
6:「ひええ、こらうまいねえ!」
7:「むほっ! こらあうまい!」
8:「ああ! こらうまいよっ!」
9:「うひょお! なんといううまさなのっ!?」
10:「うまあーーーい!」

○2巻9話「エバーボミター 〜ハルシオン・デイズ〜」にて
エンタニルというデバイス人形が瞬間移動してメタ子の家にきて、勝手にピザを食べているシーンで
「1話に1回食事シーンはグルメ漫画の基本でしょ?」というと
「人が瞬間移動するグルメ漫画があるわけないだろ」と、突っ込みをくらいます。
それに対して、「美味しんぼ6巻ディスってんですか?」と答えているのです。


1つめの富井副部長の感嘆の声は、さすがに僕もちょっと調べ切れていません。これは機会があったらまとめてみたいとは、ほんの少しだけ思うのですが、でもやるのはとてもとてもつらそうです。何かのおりに美味しんぼを読み直した時にチェックするという感じで許してください。

2つめのものは、6巻6話「日本のコンソメ」のことです。クリス・ヴォーンという超能力者が登場し、山岡さんと栗田さんはクリスのショーを見た後に他の雑誌の方々と共同取材を申し込みます。そして、ホテルのレストランで食事をしながらお話を伺うことになるのですが、その席で例によって山岡さんが居並ぶ雑誌社の方々に食べ物のことで喧嘩を売るのです。それは、コンソメスープを絶賛し、かつカツオと昆布の出汁を馬鹿にしている人たちに対して「かわいそうに。貧しい吸い物しか飲んだことがないんだな」と言い放つのです。

そこで昆布と鰹節がいかにすごいかを説明するのに、夏の北海道と、鹿児島に行く必要があるというと、クリス・ヴォーンさんはいともあっさり「私は時間と空間を思いのままにする能力を持っている」と言うのです。

かくしてみんなは夏の北海道へテレポート&タイムスリップしたり、鹿児島に行ったり、岡星に行ったりとやりたい放題をするのでした。はい。確かにテレポート(しかもタイムスリップまで)するグルメ漫画は実在したというわけですね。



ハルシオン・ランチ(2) <完> (アフタヌーンKC)

ハルシオン・ランチ(2) <完> (アフタヌーンKC)

美味しんぼで「日本酒の実力」というほぼ日本酒の話で構成されている単行本の内容がたいへん興味深かったのですが、あの巻の内容についてむむさんはどう思われますか。[INTERVIEW記事]

美味しんぼ (54) (ビッグコミックス)

美味しんぼ (54) (ビッグコミックス)

Q.美味しんぼで「日本酒の実力」というほぼ日本酒の話で構成されている単行本の内容がたいへん興味深かったのですが、あの巻の内容についてむむさんはどう思われますか。

これは大変素晴らしい質問です。僕のように日本酒好きで美味しんぼ好きにはぴったりの巻の話ですね。

「日本酒の実力」が収録されているのは54巻です。54巻に6週分に渡って掲載されています。
http://www.amazon.co.jp/o/ASIN/4091835945/mumu08-22


ここで注意したいのは、この54巻が1996年2月に発売された巻であるということです。つまり、今から15年以上前のお話なのですね。なので現在とは少し様相が異なっているということを忘れてはなりません。

ではここで、「日本酒の実力」の中で美味しんぼが主張していることをまとめてみましょう。

・ワインと日本料理が必ずしも合うわけではないけど、フランス人の真似をしている似非食通が多い
・日本の食文化の中で料理と酒の組み合わせに対する意識が低すぎる
・大手の蔵が桶買いをしているのがよくない
三増酒、つまりは三倍増醸酒はよくない
・本醸造酒は三増酒よりももっと巧妙にしたもうけ目的の酒なのでよくない
・純米酒は最高
吟醸酒は芸術品
・「酒は淡きこと水のごときを持って良しとする」にみんな従っているのが嘆かわしい
・アルコール添加吟醸酒は味が薄まっているのを軽いとかすっきりしていると勘違いしているだけ
・アルコール添加こそが諸悪の根源。日本酒ではなく一見清酒風アルコール飲料だ
・純米大吟醸こそが究極
・酒類審議会の一級とか特級とかわかりづらい(これは今は無いです)
・醸造用アルコールを添加すると世界的な水準ではリキュールに分類されてしまう

あたりでしょうか。

1996年の時点でこれだけ調べ上げているのはさすがとしか言いようがありません。ちょうど吟醸酒ブームがきていたとはいえ、作中でも触れられていた1995年の阪神大震災で灘の酒造会社が倒壊したり職人さん達が地震の犠牲になっていたりと、いろいろ揺れている真っ最中にこの回は描かれたのです。

さて、この巻の内容について、2011年の今だからこそ言えることがあります。それは、本醸造などのアルコール添加をしているお酒は、そんなに悪いものではないですよ、ということです。

本醸造などのアルコール添加をしてあるお酒は、美味しんぼで描かれているように儲け目的で薄めるために使っているのではないと思います。アルコール添加は、職人さん達が思い通りの味を作り出すために行っていることなのです。

ワインの世界では、○○年はブドウのできが良いグレートヴィンテージだとか、××年のブドウのできはあまり良くなかったので、それほど良いヴィンテージではないという言い方があります。発酵して作るものですから、その発酵のもとになっているものが美味しいと、できあがるお酒もより美味しくなるのです。でも、日本酒の世界では、○○年の物が素晴らしいグレートヴィンテージだとかって、あまり言いませんよね? ここに秘密があると思います。

日本酒や、お米にだって、当然年によるできのばらつきがあります。日本酒はワインみたいに数年寝かせておくという文化が少ないこともあるのですが、そのできのばらつきがあまり話題にならないのは、職人の力なのです。日本の職人さん達は非常に優れた技を持っておりますので、多少お米のできが悪い年でも、巧みに例年通りの美味しさに作り上げてしまうのです。その技のひとつがアルコール添加であると思います。そう、アルコール添加はどちらかというと、量を増やすために行うのではなく、職人さんが思い通りの味を出すために用いる、職人の腕の見せ所なのです。

だから、美味しんぼの作中でも「この素晴らしい吟醸酒大吟醸に、アルコール添加をするのが解せない」と言っているのですが、それは上記のような理由からだと思っています。

ちなみに最近はそのアルコール添加に工夫するところも色々と出ています。たとえば、龍力の「大吟醸 米のささやき 龍仕込みエピソード1」というお酒は添加するアルコールを、同じ蔵で造っている米焼酎でやっています。添加するアルコールを、美味しい米焼酎でやったらどうなるか? という意欲作ですね。これがまたすごく美味しいんです。

また、大手さんの作るお酒でも最近は美味しいのがでています。昔のというか、この巻の描かれた1996年ぐらいの時点は日本酒を飲んでいなかったので、その当時のことはわからないのですが2011年は大手さんのお酒でも美味しいのはありますよ、ということですね。

というわけで、僕は美味しんぼの記述はおおむね賛成ではあるものの、純米だけを良しとする純米至上主義者ではない、というスタンスです。

美味しんぼ(54) (ビッグコミックス)

美味しんぼ(54) (ビッグコミックス)

せっかくなんで栗田さんの出産の話も教えてください。[INTERVIEWS記事]

美味しんぼ(75) (ビッグコミックス)

美味しんぼ(75) (ビッグコミックス)

Q. せっかくなんで栗田さんの出産の話も教えてください。

せっかくなので答えましょう。美味しんぼの世界においても、子供が生まれるということは現実と同じく一大事です。また、女性にとって重大な「つわり」時に何を食べるかという問題が出てくるのですね。

そういうつわり話で一番最初に出てくるのは、文化部三人娘の1人である三谷夫人(旧姓花村さん)が26巻2話「おめでたい病気」においておめでたが発覚し、つわりを経験します。砂糖水とすまし汁ぐらいしか食べられなくなっていた三谷さんに何かを食べさせようと山岡さんが知恵を絞るのです。

さて、栗田さんの話をしていきましょう。栗田さんは47巻で結婚いたしました。そのときに一緒に結婚したのが近城さんと二木さんであるということは、以前のインタビューでもお答えしたかと思います。

山岡さんっていつ結婚したんですか?子供もいるし![INTERVIEWS記事] - 料理漫画を研究してます

そして、62巻で中松警部、大石警部、快楽亭ブラックさんの3人も結婚式をあげていることも説明させていただきました。

山岡さんっていつ結婚したんですか?子供もいるし![INTERVIEWS記事] - 料理漫画を研究してます

ここに団社長夫妻を加えて、6組の夫婦のお話が密接に絡み合っているというのが栗田さんの出産話になります。おそらく最初は文化部三人娘で結婚や出産をまとめようとしたのですが、山岡さんと栗田さんの結婚が思ったよりも先になってしまったので、これらの夫婦とお話を絡めていくようにしたのではないでしょうか。なので、これらの夫婦の動向も交えながら説明していきましょう。あ、ちなみにわかりやすさを優先するため、栗田さんのことは山岡夫人やゆう子さんではなく、旧姓である栗田さんと表記させていただきます。

まず、最初に栗田さんの妊娠騒動がおこります。51巻1話「疑わしい日」です。朝食を食べているとき、栗田さんがどうも気持ちが悪く吐き気がするといい、病院に行くために会社を休みます。そこで山岡さんだけが出勤するのですが、打ち合わせの最中に急に「あれはつわりだったのかも!」と思い至って「子供ができた!」と叫ぶのです。まあでもそれは山岡さんの早合点だったのでした。でも、引きもひどいんですよ。栗田さんが「病院で言われたの。『おめでとうございます』って……」と言い、山岡さんが「ああ……俺たちにあかちゃんができた……」と心底うれしそうな顔で言って次週。そして、翌週の冒頭で妊娠を否定。美味しんぼファンのかなりの人がずっこけたことでしょう。ちなみに海原雄山先生も同じような勘違いをして狼狽し、こんなところでうろうろしないで休め! と怒っています。栗田さんが魔性の女過ぎることはこの件でも明らかでしょう。

そんなフェイクなネタじゃなく本当のおめでたネタは53巻5話「鏡餅の教訓」です。二木さん(近城夫人)がおめでたです。ある日、近城さんは山岡さんに、二木さんは栗田さんに深刻な相談をもちかけます。それは、お互いパートナーに誰か他に好きな人ができたんじゃないかというものです。結局は誤解だったのですが、そういう話になったのは、実は二木さんが病院に行ったら妊娠が発覚して、近城さんの心を確かめたくて言った一言が全ての発端だったのでした。女性って怖いですね。

そんな二木さんが最初に出産を経験いたします。58巻6話「二木家の離乳食」です。近城さんは子供が生まれたのがうれしいあまり、東西新聞文化部に爆竹を投げ込みます。なんでつかまらないんでしょうこの人。それはさておき、名門二木家の一員としてふさわしい名前をつけられるよう高名な占い師や命名の権威に、子供の名前をつけられそうになって反発する近城さん。一時は離婚だ! と騒ぐけれども、ダイナマイトを腹に巻いて二木家に乗り込んでまり子(近城夫人の二木さん)と赤ん坊を奪い返してやる! と息巻いていたりします。結局は二木さんが、子供が自分の名前の意味を聞いてきたときに責任を持って答えたい! と訴えてこの問題は解決するのです。


ちなみにここで、岡星さん夫妻にもおめでたが発覚します。59巻2話「対決再開! オーストラリア」ですね。61巻7話「辰さんの贈り物」では、山岡さん達に岡星を紹介した浮浪者の辰さんから冬美さんへの安産祈願の贈り物を贈るなど、お腹も目立っていたんですが、出産のお話はでていません。ただ、これは僕の記憶がちょっと曖昧なだけかもしれません。再度調べて出てきたら修正します。


さて、次のおめでたは団さんです。団さんのお相手のジュディ・クリスティさんは、59巻2話「対決再開! オーストラリア」で出会います。究極のメニュー側のオーストラリアの道案内をしたのがジュディだったのでした。団さんもジュディもお互い議論好きということで、ずーっと議論をしつづけてたらいつの間にか仲良くなっちゃったというわけです。そして、この二人は67巻6話「新しい家族」で結婚披露宴の招待状をだします。それがなんと2週間後。はい、いわゆるできちゃった結婚という奴です。

68巻1話「噺家の心意気」で、ブラックさんテルエさん夫婦と大石警部とみさ子さん夫婦におめでたが発覚します。山岡さんこのときに「ジュディ、テルエさんと続いてみさ子さんも……なんだか、もっと続きそうだぞ。」とか言っています。いや、そういうもんじゃないかとは思うのですが。

そして68巻2話「猫にちなんだ料理!?」で、中松警部と歌子さん夫婦にもおめでたが発覚。おめでたラッシュにまたまた山岡さんは「まただ! ジュディ、テルエさん、みさ子さん、そして歌子さん! 次にできるのは……」とか言っています。

そういうことを言っている舌の根も乾かない68巻3話「待望の赤ちゃん!!」で、とうとう栗田さんにもおめでた発覚がくるのです。山岡さんの予感は正しかったのでした。

68巻4話「夫の愛、義父の愛……」ではつわりに悩まされる栗田さん。68巻5話「父と子」では、自分は不幸な親子関係しか知らないため、自分も不幸な親子関係を作ってしまうのではないかと苦悩する山岡さん。さらには71巻2話「鮭とマタニティドレス」で、山岡さんは栗田さんがマタニティドレスを着ているのを見て、本当に父親になるんだという現実をつきつけられて愕然とし、そのことが原因で栗田さんと喧嘩をしたりもします。ちなみにこのマタニティドレス騒動は、山岡さんだけではなく、団さん、ブラックさん、中松警部、大石警部も同様でした。そういう様々な危機を、各夫婦は乗り越えていきます。

そして、とうとう73巻5話「海鼠の味わい」で大石警部とみさ子さんの間に女の子が、74巻2話「料理の3原則!?」ではブラさんとテルエさんの間に女の子が、74巻3話「神秘なる椎茸」で団さんとジュディの間に男の子が、同じく74巻3話で中松警部と歌子さんの間に男の子が生まれます。さらにはここで、栗田さんのお腹の中の子は双子だということも発覚したのでした。

そしてとうとう75巻3話「双子誕生!!」で栗田さんが出産するのです! 男の子と女の子の双子でした。75巻5話「命名騒動」において、男の子は陽士、女の子は遊美と名付けられます。


さて、ここで出産のお話は終わりかと思うとそうではありません。95巻2話「焼酎革命」において、栗田さんにまたおめでたが発覚します。そう、陽士くんと遊美ちゃんに弟か妹ができたのです。そして96巻7話「おめでたラッシュ再び!!」において、近城夫婦、ブラック夫婦、中松夫婦、大石夫婦、団夫婦にそれぞれ2人目ができたことが発覚するのです。なんという偶然!

そして次に子供が生まれるのは101巻「親の味・子の心」です。さすがに妊娠に関する騒動はやりつくしたのか、100巻で日本全県味巡り青森編をやって決着がついたあと、翌週にはいきなり生まれていました。あれ、青森編の取材のときに「予定日は2ヶ月先だから大丈夫です」と栗田さんは言って取材についていったのに……

そこで生まれた第三子は遊璃ちゃんです。女の子です。同時に近城夫婦、ブラック夫婦、中松夫婦、大石夫婦、団夫婦にもそれぞれ第二子が誕生しています。

↓これが双子誕生の巻です

美味しんぼ (75) (ビッグコミックス)

美味しんぼ (75) (ビッグコミックス)

美味しんぼの中に登場する究極と至高の対決ってどういう経緯ではじまったんですか?あと今現在の究極と至高の勝敗はどれぐらいなのですか?[INTERVIEWS記事]

美味しんぼ (15) (ビッグコミックス)

美味しんぼ (15) (ビッグコミックス)

Q.美味しんぼの中に登場する究極と至高の対決ってどういう経緯ではじまったんですか?あと今現在の究極と至高の勝敗はどれぐらいなのですか?

これは素晴らしい質問です。美味しんぼという偉大な作品の根幹である、究極のメニューと至高のメニューの対決。この関係を整理し、記録をつけることは料理漫画研究的にも非常に重要なことだと思います。

ただし、ここで一つ注意しなければならないことがあります。それは、基本的には僕は料理のネタばらしをしたくないということ。だって、美味しんぼでどんな料理が出てくるかがわかったら少し興が冷めちゃうじゃないですか。なので、他の質問でも人間関係のことを中心に書いてきました。今回も各対決のリストをつくりますが、詳細は書いていくのはやめようと思います。あらかじめご了承ください。


さて、究極のメニューですが、こちらは1巻1話「豆腐と水」から登場します。そう、最初の最初から登場するメインテーマなのですね。これは東西新聞100周年記念事業として大原社主の肝いりで始まった事業です。

そもそも人類の歴史は食の文化でもあります。歴史上、たとえばルイ王朝の晩餐会のメニューや、秀吉の聚楽第での大宴会のメニューとかはその時代の文化を知る上で貴重な文化遺産となっています。そこで、あらゆる国の料理を輸入し、多彩な食文化を持つ日本において、あらゆる美味珍味から選りすぐった、後世に残す文化遺産としてのメニューを作る……というのが究極のメニューの目的なのです。その担当になるためのテストが、豆腐の産地当てと水の水質当てだったのですね。


そして至高のメニューですが、意外と登場は遅く、15巻1話「究極VS至高」で登場します。東西新聞のライバルである帝都新聞が同じコンセプトで至高のメニューを発表すると新聞に載せたのですね。究極のメニュー側はメニュー作りを先に始めていたものの、全て完成してから大々的に発表するつもりで紙面には載せずに、こういうことをやるという告知だけをしていました。ところが、至高のメニュー側は毎月1メニューずつ載せるということを先に発表してしまったのです。いわば、究極側は、完全に隙をつかれて不意打ちをくらった形になります。かくして究極のメニュー側も至高のメニューに対抗すべく、緊急会議を開いて同じようにメニューを小出しにしていくことを決定したのでした。


その新聞社同士の抗争を鋭くかぎつけたのが週刊タイム誌です。週刊タイム誌が究極のメニューと至高のメニューと、対決をして雌雄を決しましょうと。そしてその対決をタイム誌上でやらないかと提案をし、双方が合意したというわけです。中立の立場の週刊タイム誌が審査員を用意し、実際にそれぞれがメニューを作って対決することが決まりました。かくして、東西新聞の究極のメニュー(山岡)VS 帝都新聞の至高のメニュー(海原)の対決が、週刊タイム誌上で掲載されていくという形になったのです。


さて、究極VS至高はこのようになるのですが、山岡さんと海原雄山先生が料理の競作をし、戦うという図式はもっと前からありました。第5巻3話「技巧の極致」では鯛料理比べをしています(山岡さん側の料理人は岡星さんです)。同じく5巻8話「もてなしの心」では海原雄山先生の師匠でもある人間国宝の唐山陶人先生の披露宴において、飯と味噌汁の競作をします。そしてその後も競作は何度となく出てくるのです。さらにはどちらかがどちらかを一方的にへこます(つまり、片方しか料理をしていない)対立はたくさん出てきます。この辺の勝敗は入れるかどうかはちょっと悩ましいのですが、今回は入れないことにしましょう。さらに、究極対至高の対決において、いくつか勝敗が決しなかったものもあります。これは審査シーンが無かったり、相手を勝たせるためにわざと落ち度を作ったり、それに気づいた勝者側が勝敗は無効だと後から言ったりというものです。その場合も、審査員が宣言した勝敗をベースに勝敗の結果をつけました。つまり、後から勝者側が無効と言ったのはカウントしていないというわけです。

さらにちょっとだけ補足を。究極VS至高の戦いは現在でも続いておりますが、究極側も至高側も代替わりをしております。究極側は東西新聞社の飛沢くんが、至高側は美食倶楽部の若手の星である岡星良三くんが中心となって進めております。従って、後継者同士の戦いが始まる前の、山岡さんと海原雄山先生がそれぞれ互いの陣営の中心となって戦っているところまでで区切らせていただきたいと思います。


究極対至高の対決リスト(102巻まで。最新刊は2011年9月現在で107巻)

1回戦は卵料理対決(15巻1話「究極VS至高」)
2回戦は野菜対決(16巻5話「対決!! 野菜編」)
3回戦は餃子対決(17巻1話「餃子の春」)一応は番外編になるのですが、週刊タイムに載ったので3回戦ということで。
4回戦はエイ料理対決(17巻2話「エイと鮫」)
5回戦は生肉対決(18巻1話「生肉勝負!!」)
6回戦……と言いたいのですが、次は番外戦になります。村おこしのための名物作り勝負(19巻1話「対決!村おこし」)です。
本当の6回戦は蒸し焼き対決(20巻4話「蒸し焼き勝負」)
7回戦は牡蠣対決(20巻6話「カキの料理法」)
8回戦は豆腐対決(22巻2話「豆腐勝負!!」)
9回戦は鰹対決(23巻4話「カツオのたたき」)
10回戦はカレー対決(24巻1話「カレー勝負」)
11回戦はスパゲッティ対決(25巻1話「対決!! スパゲッティ」)
12回戦はお菓子対決(26巻4話「菓子対決!!」)
13回戦は披露宴料理対決(27巻2話「究極の披露宴」) これは荒川さん田畑さんの結婚式です
14回戦は長寿料理対決(28巻2話「長寿料理対決!!」)
15回戦は鮭対決(30巻5話「鮭勝負!!」)この手前から団社長が週刊タイムの出版社を買収して登場してきます
16回戦は鍋対決(31巻5話「鍋対決!!」)
17回戦は豆腐対決再び(32巻6話「新・豆腐勝負」)
18回戦はオーストラリア料理対決(33巻3話「魅惑の大陸」)
 ここだけちょっと解説を加えますと、東西新聞の企画であるオーストラリア年の一環として、世界味めぐり(二木さんが山岡さんと一緒に仕事をするきっかけの雑誌)においてオーストラリア特集を組むことになります。そして海原雄山先生もオーストラリアで個展を開くので、それだったらオーストラリアで究極VS至高を実現しちゃいましょうという団さんの企みにまんまと二人とも乗ってしまったのでここから先はちょくちょくオーストラリア対決になります。

19回戦はサラダ対決(34巻5話「サラダ勝負」)
20回戦はサウス・オーストラリア対決(35巻2話「豊穣なる大地」)
21回戦はおかず対決(35巻5話「おかず対決」)
22回戦はアボリジニー料理対決(37巻2話「激突 アボリジニー料理!!」)
23回戦はオーストラリアが我々に与えてくれる夢(40巻2話「オーストラリアン・ドリーム」)
24回戦はおせち料理対決(41巻6話「おせち対決」)
25回戦は朝食対決(42巻4話「愛ある朝食」)
26回戦はクイーンズランド対決(44巻1話「熱闘! クイーンズランド」)
27回戦は究極のメニュー・至高のメニュー完成発表会(47巻3話「結婚披露宴」)

ここでいったん一区切りがつき、金上社長という美味しんぼ史上最悪の強敵が現れます。対決再開まで結構間があきます。

28回戦はニューサウスウェールズ州対決(59巻2話「対決再開! オーストラリア」)
29回戦は水対決(60巻4話「水 対決」)
30回戦は低予算披露宴料理対決(62巻「低予算披露宴 対決!」)

そしてここから日本全県味めぐりという企画がスタートします。県をひとつひとつめぐって、その県の食材を使い、県独自の料理方法を探してそれを取り入れた究極のメニューと至高のメニューをつかって対決していくのです。

31回戦は大分県対決(71巻1話「日本全県味巡り大分編」)
32回戦はチーズ対決(73巻1話「チーズ対決!!」)
33回戦は宮城県対決(75巻2話「日本全県味巡り宮城編」)
34回戦は大阪府対決(77巻5話「日本全県味巡り大阪編」)
35回戦は山梨県対決(80巻2話「日本全県味巡り山梨編」)
36回戦はイタリア料理対決(81巻3話「イタリア対決!!」)
37回戦はおむすび対決(82巻6話「おむすび対決」)
38回戦は富山県対決(84巻1話「日本全県味巡り富山編」)
39回戦は高知県対決(87巻3話「日本全県味巡り高知編」)
40回戦は器対決(88巻5話「器対決!」)
41回戦は医食同源対決(94巻2話「医食同源対決!!」)
42回戦は長崎県対決(98巻1話「日本全県味巡り長崎編」)
43回戦は青森県対決(100巻1話「日本全県味巡り青森編」)
44回戦は相手を喜ばせる料理対決(102巻1話「究極と至高の行方」)
これについてすこし補足すると、審査員を喜ばせるのではなく、究極側は至高側を、至高側は究極側を喜ばせる料理対決となります。

そして、この44回戦目の戦いで、山岡さんと海原雄山先生の和解が成ります。それはニュースとして各種媒体に掲載されたのでご存じの方は多いでしょう。この44回戦目をもって山岡さんと海原雄山先生との対決は1段落。後継者の飛沢くんと良三くんの戦いへと移っていくのです。

ここまで44回戦+1番外編の勝敗は、究極側の視点で言うと

9勝14敗21引き分け1審査無し

となります。


↓ここから究極vs至高が始まりました

美味しんぼ(15) (ビッグコミックス)

美味しんぼ(15) (ビッグコミックス)

岡星さんや中松警部や快楽亭ブラックさんのエピソードを教えて下さい [INTERVIEWS記事]

美味しんぼ (62) (ビッグコミックス)

美味しんぼ (62) (ビッグコミックス)

Q.岡星さんや中松警部や快楽亭ブラックさんのエピソードを教えて下さい

これは難しい質問です。そして、いい質問をありがとうございます!

岡星さん、中松さん、ブラックさんそれぞれの結婚に至るまでのエピソードという形でよろしいでしょうか? もし違うのでしたらお手数ですが再度質問をしていただけたらと思います。例によってネタばらし全開なので、気になる方は注意してください。


まずは岡星さんからいきましょう。

美味しんぼ屈指の名バイプレイヤーであり、山岡さん達も何か困ったことがあると相談に行く岡星店主の岡星さん。初登場は意外にもかなり早く、1巻4話「平凡の非凡」でした。あの京極さん(そう、京極さんの初登場も同じ回です)を接待するために超一流の料亭である銀座の花川に行った文化部の面々。しかし、花川は内部のごたごたのせいで味が落ちていていい加減な料理しか出てこなかったため、京極さんは侮辱されたと感じて席を立ってしまいます。そこで山岡さんがいつもの通り「どうです、明日もう一度ごちそうさせてくれませんか?」と提案したのですね。とはいっても、花川以上のお店がそうそうあるわけではありません。そして山岡さんは銀座の店を知り尽くしているという、浮浪者の辰さんに相談をするのです。その辰さんが「あそこが今、ダントツだね!」と太鼓判を押したのが岡星だったというわけです。

その後もいつの間にか、山岡さんが何かしらの実験をするときに使うお店として岡星は登場します。3巻5話「醤油の神秘」では、花村さんが一目惚れをした青年の持っていたおせんべいに使われていた醤油の謎を解き明かすため、岡星で効き醤油をします。4巻7話「板前の条件」では、岡星の味が忘れられない京極さんがお店を訪れます。ここで後の最重要人物の一人、岡星の弟さんの良三君が初登場するのですね。この時点で美食倶楽部の料理人だったのですが、大失敗をして海原雄山を怒らせてしまっています。そう、あの有名な「このあらいを作ったのは誰だあっ!!」というシーンがここで登場するのです。

そしてとうとう5巻3話「技巧の極致」では、他店で山岡さんの指示に従って料理を出すという、出張料理をも始めるのです。その後もちょくちょく山岡さん達のたまり場になる岡星(お店)。6巻6話「日本のコンソメ」ではちょっと後ろを向いていてくださいと言われた隙に超能力者の人がお客さんをみんなテレポートさせてびっくりするというお茶目なところも見せてくれます。さらに8巻6話「二代目の腕」では天ぷらやを継いだ友人に対して何かアドバイスは無いかと山岡さん達に相談をしたりもしています。

ちなみにこの岡星さん。フルネームを岡星精一と言います。みんな岡星さん岡星さんと呼んでいてなかなか本名が出てこないのですが、10巻8話「潮風の贈り物」において海原雄山に挨拶する際に名乗っているので本名がわかったというわけです。

そんな岡星さんの恋物語は25巻6話「年越しうどん」で明らかになります。実は岡星さんにはその昔、将来を誓い合っていた冬美さんという女性がいたのでした。ですが、その冬美さんは今までに一緒になった男性2人と死別をしていたのです。そして、自分は不幸にとりつかれた女であり、これ以上岡星さんと一緒にいると岡星さんが不幸になると思い込んで失踪したのでした。そんな冬美さんを良三くんがスキー場で見かけ、長野に駆けつける岡星さん。必死に説得する岡星さん。そして、二人の思い出の料理、鍋焼きうどんのおかげで氷に閉ざされていた冬美さんの心が溶け、二人はまた一緒になるのでした。


さて、お次は中松警部です。

彼も美味しんぼ世界の脇を固めるのに欠かせない人物です。初登場は2巻3話「そばツユの深味」ですね。日本蕎麦の屋台、珍しいお店に山岡さんと栗田さんが入って蕎麦を食べている時に登場します。そう、中松警部は無類の蕎麦好きなんですね(伏線です)。その屋台は実は来週申請が降りることになっているんですが、許可が下りるとわかったら一日も早く営業したい!! ということでこっそり営業していた無許可店だったのでした。そしてその蕎麦を食べた中松警部はこう言うのです。「蕎麦とつゆとの釣り合いがとれていない」と。そこで、中松警部をぎゃふんと言わせる蕎麦つゆができたら許可証を渡す、駄目だったら許可証はあきらめろという無理難題をふっかけるのです。まあ、例によって山岡さんの企みでその店主はそばつゆを作り上げることができるのですが、そういう初登場だったのでした。

その後、警察絡みだと中松警部が登場します。3巻1話「炭火の魔力」では酔っ払って暴れたうなぎ職人取り押さえてみたり、5巻4話「スパイスの秘密」では警察に保護された記憶喪失のコックコートを着た人を保護したり、9巻7話「最高の肉」において栗田さんが捕まって取り調べを受けている時に助けに来たりしてくれました。

そんな中松警部の恋のお相手。それはアイスクリームハウスうたこの店主、水森歌子さんです。7巻2話「氷菓と恋」ですね。恋は盲目とはよくいったもので、中松警部は流行らないうたこの為に、六本木や青山の人気アイスクリーム店の味を盗もうとするのです。色々とあってアイスクリームが美味しくない謎も解け、中松警部の歌子さんに対する思いも通じ、ウェディングケーキもアイスクリームでなんて言い出すぐらいになりました。

中松警部を語る上では、彼のライバルも出てこなければなりません。それは、中松警部率いる銀座中央署剣道部のライバル、新宿南署の大石警部です。初登場は20巻6話「カキの料理法」になります。その大石警部は歌子さんのお店ICE CREAM UTAKO(改装して名前がアルファベット表記に)のアルバイト、みさ子さんに一目惚れをするのです。

そして53巻6話「猫が怖い!?」において、とうとう中松警部と歌子さんが結婚を決意します。同時に大石警部とみさ子さんも結婚を……と、思いきや、大石警部には猫が嫌いという弱点があり、みさ子さんは猫が大好きという深刻な問題があったのでした。このままでは結婚ができないと悩む大石警部。そんな時にみさ子さんが交通事故にあってしまうのです。幸い命に別状が無く軽傷で済んだのですが、大石警部が入院中の猫の世話をしなければなりません。山岡さんから教わった治部煮により、何とか猫と仲良くなることに成功した大石警部。この2人も結婚へ向けて進んでいくことになります。

60巻4話「水対決」では中松警部、歌子さんの式の日取りが決まり、山岡夫妻に披露宴の献立の相談をしています。そして、61巻8話「盲点の食材」では、中松警部達と大石警部達が合同結婚式を行うことが決まったのです。さらにはここでブラックさん達とも合同結婚式を行うことが決まります。というのも中松警部の銀座中央署の署長と大石警部の新宿南署の署長が犬猿の仲で互いにあいつが結婚式にくるなら俺は出ないと言い張り、中松・大石両警部を困らせていたのでした。そこを解決させるために山岡さんが手を打ってブラックさん達ともさらに合同結婚式を行うことを決めたのです。

そしてとうとう結婚式が行われたのが62巻3話「低予算披露宴対決!」です。中松警部にいたっては、7巻の発売日が1986年で、62巻の発売日が1997年なので11年越しに結婚したというわけですね。


最後はブラックさん。

7巻5話「大豆とにがり」にて初登場します。登場時はヘンリー・ジェームス・ブラックです。料理研究家、そして豆腐研究家として登場するのですね。ところでブラックさん。ヘンリー・ジェームス・ブラックと名乗っているのに、そのあと山岡さん達といく豆腐屋ではスタン・ブラックと名乗っています。ヘンリー・ジェームスの愛称がスタンとなるかというとそうではありません。この問題のおそらくヒントになるのは、ブラックさんが「これが私の書いた本です」と差し出した「THE BOOK OF TOFU」にあるのでしょう。よくよく見ると、著者名と思しきところに「STAN BLACK」と書かれています。なので、豆腐研究家としてのペンネームがスタン・ブラックであり、豆腐店への取材時はこのペンネームを名乗ったと解釈することができます。

ちなみにブラックさんはこの豆腐騒動の時にたまたま山岡さん達と一緒にいた快楽亭八笑師匠にその場で弟子入りをします。ここから、快楽亭ブラックが誕生したのです。

その後のブラックさんは7巻7話「黄身と白身」において、国際目玉焼き会議(IFEC)の委員の一人であり、同会議に文化部の面々を招待したり、9巻6話「日米味決戦」では同じアメリカ人のジェフとともに、日本人とアメリカ人の味覚の違いについて説明するときに登場したりと、国際的な話題のときにたびたび登場し活躍しています。

そんなブラックさんの浮いた話は12巻5話「豆腐の花」に出てきます。お相手はテルコ・テルエのテルテルコンビという女漫才のテルエさん。初登場時はなんと過労による入院をしていて、ブラックさんがなんとかして滋養のある物を食べてもらおうという回でした。生粋の江戸っ子であるテルエさんは、滋養のあるポタージュスープとかを頑なに飲もうとしません。そこでブラックさんが呉汁を作って食べてもらうのです。あ、ちなみに最初からこの二人はラブラブでした。

そんなブラックさんはやっぱりアメリカ人ということで、日本食の文化の壁にたびたびぶち当たります。23巻10話「白身魚の芸」では白身魚の繊細な味わいが、27巻3話「父のコロッケ」では落語の「子別れ」のような、日本特有の男女の機微が、わからず苦しむブラックさん。でもそんなときでもテルエさんはブラックさんを支え続けるのでした。

そんな二人に最大の危機が訪れます。52巻2話「愚かさの味」です。とうとう結婚を決意したブラックさんとテルエさんですが、テルエさんのお父さんが「アメリカ人との結婚は許さない」と言い出したのです。というのもテルエさんのお父さんは東京大空襲の経験者。空襲時に家族を全て失い天涯孤独になっています。そんなお父さんがはアメリカが「原爆が戦争終結を早めた」と言うのがどうしても許せなかったのでした。ですが、ブラックさんのお父さんから、兄(ブラックさんの伯父さん)が日本軍の捕虜として亡くなった話を聞かされ、憎しみの心を次世代まで持ち込むべきじゃないと反省し、テルエさんのお父さんはブラックさん達を祝福するのでした。

ブラックさん達の結婚がきちんと決まったのは61巻8話「盲点の食材」です。両方の師匠からのお許しが出て、ようやく結婚できるようになったのです。そこで、結婚を決めましたと山岡さん達に報告をしたらその場で中松警部達、大石警部達との合同結婚式が決まったのですね。よくよく考えると山岡さん、結構強引かも。

そして、62巻3話「低予算披露宴対決!」にて3組の結婚式が開かれました。ここでも究極のメニューと至高のメニューの対決になっています。何故低予算披露宴になったのか。それは、テレビ番組「現代を斬る」において、究極のメニューと至高のメニューこそが腐敗と堕落の象徴であるとばっさりやられたからです。ぜいたくしている場合ではないじゃないか、と。それに対する反論も含めて、究極のメニューと至高のメニューはこの合同結婚式において、低予算のメニュー対決を行ったというわけなんですね。3組も、費用を東西新聞と帝都新聞が持ってくれるということで大歓迎でした。


これらのカップルはその後も続々と話に絡んできます。それぞれの新婚生活は64巻に出てきたりするのですが、長くなりすぎたのでこの辺で。

↓合同結婚式が行われた巻です

美味しんぼ(62) (ビッグコミックス)

美味しんぼ(62) (ビッグコミックス)

山岡さんっていつ結婚したんですか?子供もいるし![INTERVIEWS記事]

THE INTERVIEWSが終わってしまうということで、しばらくINTERVIEWSで答えた料理漫画関連の記事をこちらに移行します。昔読んでくださった方も、初めて読む方も、お楽しみいただけたらと!


美味しんぼ (47) (ビッグコミックス)

美味しんぼ (47) (ビッグコミックス)

Q. 山岡さんっていつ結婚したんですか?子供もいるし!

いい質問ですね! せっかくなんで、美味しんぼの世界をそういった人間関係的にわかりやすく解説していきましょう。料理関係のネタばらしは一切ないのですが、人間関係はネタバレしまくりなのでそういうのが苦手な方は読まないでくださいね。

まず、山岡さんと栗田さんの出会い。これはもうみなさんご存じの通り1巻第1話です。筋金入りのグータラ駄目社員と新入社員教育を完了したばかりの栗田さん。二人の出会いは徹夜明けの山岡さんを栗田さんが目撃するところから始まるという、割と最悪な感じでした。

そして伝説の豆腐と水による味覚テストを経て、2人は会社に業務命令でコンビを組まされます。そしてここから美味しんぼが始まるのですね。

昔の山岡さんは今の丸くなった姿からは想像できないようなグータラ駄目社員です。気にくわなかったらどなりつけるとか余裕でやります。無精ひげも生やしているし、耳には赤鉛筆をさし、常に競馬新聞を持っています。料理がらみで活躍して栗田さんに見直されることがあっても、それが好意につながるということはこの時点では皆無だったと言ってもいいでしょう。

美味しんぼ世界の中で最初の恋愛沙汰は文化部の花村さんです。3巻の5話に収録されている「醤油の神秘」において、雪山で命を助けられた青年に一目惚れ。手がかりはそのときにもらったおせんべいだけ……その件を解決し、花村さんは無事にその青年と再会することができ、つきあい始めます。

栗田さんが山岡さんを意識するきっかけは4巻の5話「食卓の広がり」でしょうか。山岡さんの元同僚で寿退社した女性が文化部に遊びにきて、そのときに彼女が昔山岡さんを好きだったということを知って「山岡さんを好きだった女の人がいたなんて……」と、ショックを受けます。

さらに5巻の7話「サラダと美容」において、ラブコメの定番中の定番であるお見合いイベントが発生します。ただし、お見合いをするのは山岡さんです。いつもの大原社主の横暴で山岡さんがお見合いをすることになったのですが、それを知った栗田さんはそれはもう不機嫌になったのでした。

そして同じく5巻の8話「もてなしの心」において、山岡さんは海原雄山に決定的にうちのめされます。そして、今以上に究極のメニューにうちこむため、ここまで片時も離さなかった競馬新聞を手放し、競馬断ちをするのです。その真摯な姿を見て、栗田さん側の好意はほぼ確定的になっていくのでした。

さて、山岡さん栗田さんはその後はつかず離れずの関係なのですが、他の人に動きがでます。中松警部……は申し訳ないけど省略して。文化部の取材にきたカメラマンの荒川さんが田畑さんに一目惚れをします。7巻5話「手先の美」ですね。さらには11巻6話「フォン・ド・ヴォー」において花村さんは三谷さんと結婚式を挙げます。

さて、15巻第1話「究極VS至高」で海原雄山の至高のメニューが動き出します。なのでここからは料理対決色が全面に出てきて色恋関係はなかなか進みません。そんな中、栗田さんを口説こうとする男性が登場してきます。まず1人目の刺客は多山財閥の御曹司。19巻「食は三代?」で登場します。料理評論家と組んで罠をしかけ、山岡さんに味覚勝負を挑みます。栗田さんの目の前で山岡さんを倒せば、栗田さんが自分になびくと思ったのですね。ですがこれは惨敗。栗田さんはあっさり多山さんをふってしまいます。

そして油断をしていると、山岡さん側にも刺客が。そう、二木まり子さんです。二都銀行の会長の孫にして二都銀行頭取の娘さんです。21巻3話「新しい企画」からレギュラーキャラクターとして入ってくるのですね。そして初登場時から山岡さんにすり寄る二木さんを見て、栗田さんは毎回複雑な表情をするのです。

そして栗田さんに対する2人目の刺客、カメラマンの近城さんはこの二木さんの企画に参加する形で登場します。21巻5話「挑戦精神」からですね。そして近城さんは栗田さんに、二木さんは山岡さんに接近するという構図ができあがるわけです。

そしてしばらくはおじいさんも絡めての二木一族による山岡さんへのアプローチ、栗田さんがそれに嫉妬する、みたいな構図で進みます。そんな中、27巻2話「究極の披露宴」にて、荒川さんと田畑さんが結婚式を挙げます。結婚式がそのまま究極のメニューと至高のメニューの対決になったのですね。以後、結婚式=究極のメニューの披露会という図式ができあがります。

そして、栗田さんに対する最後の刺客、団社長が登場します。29巻7話「「究極」の弱点」です。ここから、栗田さんに対して団社長と近城さんがアプローチをかけ、山岡さんに対して二木さんがアプローチをかけ、栗田さんと山岡さんはお互いを何となく気にしているという図式ができあがるのです。

団社長の猛烈なアプローチ、そして周囲(三谷夫人と荒川夫人)のそれの後押しによって、団社長とご飯を食べに行ったりする機会が増えた栗田さん。そんな栗田さんを見て山岡さんは「変だなあ……どうしたんだろう……胸がうずく……」と自分の気持ちを自覚するのです。そして、至高のメニューとの対決で究極側が負けたときに「君は俺と二木さんのことを誤解……」「山岡さんは私と団さんのことを誤解……」とお互いに言い合い、誤解が解け、仲が急速に接近していくことになります。(30巻)

ですが、二人の仲がこれ以上進展するには重い問題がありました。それは山岡さんの心の傷です。山岡さんは海原雄山が身勝手な暴君で、母親をさんざんひどい目に遭わせていじめ殺したと信じているのです。そして、自分の育った家庭を、海原雄山が自分の芸術のために周りの人を塵芥のように扱う、地獄のような家庭だったと思っているのです。そんな両親を見て、結婚だけはすまいと頑なに思っていたのでした。

そんなトラウマを吐露したことがきっかけで、近城さんが栗田さんにアプローチをかけるのを応援する立場になった山岡さん(33巻1話「春の息吹」)。近城さんも団社長という強力な対抗馬が出てきて焦ってきたのですね。そして近城さんは二木さんとも同盟を組みます。二木さんの山岡さんへのアプローチに協力する代わりに自分の栗田さんへのアプローチを応援しろと言うのですね。近城さん、策士です(33巻3話「魅惑の大陸」)。

で、それぞれがそれぞれの思惑のもとに動き、山岡さんも一応頑張っているものの、山岡さんと栗田さんの仲が良くなるという展開が続きます。さらに、近城さんと二木さんの仲も接近してくるというおまけつき。そして色々とあって、山岡さんは自分の気持ちをはっきり自覚するようになり、41巻3話「失恋気分」で近城さんに協力はもうやめたと宣言をするのです。その派生で、近城さんと二木さんも自分達の気持ちにだんだんと気づき、距離が近づいていきます。

そうやって山岡さんと栗田さんの距離が近づいたのですが、42巻3話「恋とお汁粉」にて団社長と近城さんがそれぞれ栗田さんにプロポーズをするのです。栗田さんはその申し出を保留にするのですが、それを知った山岡さんは酒に溺れていきます。山岡さんは結婚に対して禍々しいイメージを持っているため、栗田さんに結婚を申し込めない、でも他の人にプロポーズされて気になる、という、どこにも気持ちのもっていき方が無くてお酒に溺れるというわけです。その後「愛ある朝食」での朝食対決を経て、両親に対する誤解が徐々に解けてきて、43巻「過去との決別」でとうとうトラウマを振り払い、栗田さんにプロポーズをするのです!

そして二人は婚約をし、色々と新生活のための準備を進め、海原雄山からも暫定的に許可を得て、結婚式の準備を進めていきます。46巻3話「究極の新居」で新しく住むところも決まり、結婚式が究極のメニュー&至高のメニューの発表会になることも決まり、さらには近城さん&二木さんとの合同結婚式になることも決まりました。これは実は、山岡さんが結婚式に呼びたくない海原雄山を結婚式に引っ張り出すために、至高のメニューの発表会も兼ねるという企みからだったりします。

そしてとうとう47巻3話「結婚披露宴」にて、二人が結婚するのです! 47巻の発売が1994年10月で、1巻が1985年1月ですから、約10年かけて結婚したことになるのですね。

というわけで、いつという質問に対する答えは47巻です。今から実に17年前に結婚したということになります。

↓これが結婚式の回が収録されている巻です。

美味しんぼ(47) (ビッグコミックス)

美味しんぼ(47) (ビッグコミックス)